技術レポートタイトル

2003.1.15号
 築25年から30年を経過したマンションの「排水管の改修」現場を見学させていただきました。外壁の塗装や屋根防水工事に比べ、専有部に設置された共用の排水立て管やそれに接続される、専有の排水横枝管の取り替えは、修繕工事の中でも最も大規模となる工事ではないでしょうか? 排水器具から下水の本管まで排水管路はすべてつながっています。工事中の排水規制や住戸に立ち入っての工事は、区分所有者ひとり一人の理解と協力が絶対条件です。今回と次回の2回に分けて、改修現場レポートをお届けします。なお、本レポートは北海道設備設計事務所協会機関誌「Space」に寄稿したものです。
 
排水管改修現場からの知見
株式会社 小島製作所
専務取締役 小島誠造
はじめに
 平成12年12月8日に法律第149号として公布された「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」に基づき、平成14年12月8日に「マンション管理士」の国家試験が実施されます。初回であった昨年度に比べ受験申込者数は減ってはいますが、62,183名の方々が受験されるとのことで、マンション管理に関する関心の深さが窺われます。本法律の第一条(目的)には、「・・・・国民の住生活を取り巻く環境の変化に伴い、多数の区分所有者が居住するマンションの重要性が増大していることにかんがみ、・・・・マンションにおける良好な居住環境の確保を図り、・・・・」と記されており、約400万戸にのぼると推計されるマンションストックの管理が、今後益々大切になってくることを示唆しています。また、マンションストックのうち築20年以上の物件がすでに約25%となっている現実があり、今まで手付かずになっていた排水管の改修工事がどっと押し寄せてくる感があります。
 これまでに築25年前後の大規模マンションにおける排水管改修工事を複数現場見学する機会を得ました。排水通気の分野に身を置く立場から、その際に感じたことを思いつくまま述べさせていただきます。
 
1.ねじ部からの漏水が改修の動機付け
 マンションでは排水管改修工事に至る前に、外壁の塗装や屋根防水工事、また給水管の取り替え工事などの大規模修繕工事を先行して実施しているところが多いようです。外壁や手すりなどの塗装は劣化が目に見えますし、給水管も錆による赤水が目安になります。また外壁塗装などは専有部に入ることなく工事を進めることができ、見違えるような出来映えが期待できます。水圧により配水する給水管は、既設配管を残したまま新設配管の経路を比較的自由に選択することも可能です。それに比べると排水管は厄介です。水は高い所から低い所へ重力によって流れます。決してこれに逆らうことはできません。既設の排水立て管を撤去することなく新管を設置し、かつ大便器や浴槽などの位置を変えることなく、適正な配管こう配で排水横枝管を更新することは至難の業であります。加えてほとんどのマンションにおいて、共用の排水立て管が専有部にあるため、住戸の中に入ってパイプシャフト(以下、PSと称す)の壁や天井などを壊し、給水管に比べて径大である排水立て管や継手を住戸内部に持ち込んで工事が進行することになります。工事をする住戸はもちろんのこと、同一排水立て管に接続されている上層階の住戸は排水禁止となり、区分所有者にとってもストレスが大きい工事になります。また、経年とともに配管のねじ部は確実に腐食が進行しています。雑排水系統にねじ込み式排水管継手を使用しているケースでは、このねじ部からの漏水が排水管改修工事の動機付けになっているようです。

図-1 雑排水立て管と横枝管
(配管用炭素鋼鋼管とねじ込み式排水管継手が使用されている。ねじ部からの漏水が排水管改修の動機付けとなった。)
 
2.区分所有者の不安と期待
 長期修繕積立金を取り崩して共用排水立て管の改修に踏み切るためには、区分所有者ひとり一人の理解と協力が絶対条件となります。そのためには専門家ではない生活者に排水システムの原理原則から、工事の進め方に至るまでわかりやすくプレゼンテーションすることが重要となります。不具合などの聞き取りによる予備調査から始まり、内視鏡調査や抜管による診断過程を経て、具体的な改修設計へと進みます。また工事中の安全管理や職人さん達への教育、職位ごとの服装にいたるまで、仔細にわたり説明して区分所有者に不安を払拭してもらうことです。
 排水管を改修するにあたり区分所有者は、漏水の修理や排水能力の回復といったトラブルの解消に留まらず、より高性能で付加価値の高いシステムを期待します。特殊継手排水システムの技術革新により、20年以上前に比べると排水性能も配管接続方式も塗装の仕様も格段に向上しており、十分に期待に応える継手が用意されています。
 排水立て管は共用のものであり、排水横枝管は専有のものであります。立て管継手の部位で区分が分かれますが、排水管は器具から公共下水に放流されるまでつながっており、改修に際してはシステムとして一体的に改修されることが多いようです。その際のオプション工事として便器や洗面化粧台などの取り替えを受け付けています。敷地内の現場事務所では女性の説明者が対応し、区分所有者の方々が相談しやすい雰囲気を作り上げていました。こんなことも大切なことだと感じました。


図-2 わかりやすい
      プレゼンテーション
 
3.改修後の寿命は
 設計や施工の状態、また立地環境による鉄筋コンクリートの劣化によって、構造躯体の物理的な耐用年数は異なり、残存寿命が何年なのか?を経年だけで判定することは難しいといわれています。今までの分譲マンションの建て替え事例をみると築後20年〜30年のものが多いようですが、これらは物理的な寿命というより機能的な陳腐化を回復するためのものと考えられます。物理的な劣化とは別ですが、減価償却資産としての「耐用年数:60年」というのがひとつの目安になるかも知れません。築後25年で排水管の改修工事を実施した場合、改修した排水システムの期待耐用年数は35年以上ということになります。
図-3 入居1年後の専有部排水横枝管内付着状況 (管径:50mm)
左:台所流し横枝管 右:浴室系統横枝管
 排水管のうちトラブルの発生が多いのは台所流し系統であります。昭和40年代から50年代初頭頃は、台所流しの排水横枝管・立て管や台所流しが合流する雑排水立て管は、配管用炭素鋼鋼管とねじ込み式排水管継手を使用して、ねじ接合するケースが一般的でした。ねじ切りにより薄肉となった部位から腐食が進行し漏水へとつながる訳です。加えて台所流しは油脂分の付着が著しく、定期的な清掃を怠ると動脈硬化が進みます。付着物により管径が狭小化すれば排水の流れが悪くなるばかりか、通気障害によりボコボコ音が発生し、最後には破封して下水からの臭気が室内に流入してきます。図-3は入居から1年で専有部の排水横枝管にどの程度付着するかを調査したものです。台所系統と浴室系統を比較すると明らかに付着率が違うのがわかります。雑排水管、特に台所流し系統は改修後においても定期的な清掃が必須です。

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コンセプトチャート Vol.2

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